決勝戦

準優勝!

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肯定側:女子聖学院VS否定側:修猷館高校 2ー3(16ー16)で惜敗…

 決勝戦。またここでも、生徒の足を引っ張ってしまったのは僕だった。2日目が終わって、生徒たちは疲れ切っていた。いつもの年なら、駅前のカプリチョーザに行って食事会をするのだけど、時間も遅かったので、サブウェイで買い物をしてホテルに戻った。明日は1時15分から。準備は明日の朝行えばいい。ということで、今日は遊びに行かず、体を休めるように指示した。ところが部屋に戻ってから、今日伊藤が持ち出した「マイナスの所得税」に関連する議論のことが気になりだした。生徒たちが持っている資料の中に、森林保全税のようなものを求める運動が日本でも起こっているという話があったはず。そこでつい、生徒たちの部屋に電話をして、その資料を探しておくように言ってしまった。おかげで生徒たちはその指示に忠実に従い、結局1時半くらいまで起きていた。ところが、朝4時に目が覚めて、自分の手元に置いてあるイミダスに載っているのではないか、ということに気がついた。調べてみると、……あった。生徒たちに話すと、怒ったのは言うまでもない。

 これが決勝戦でのパフォーマンスの低下につながった気がする。

 食事を済ませ、ホテルを出て幕張の駅まで行ったところでちょっとしたハプニングが起きた。笠原がイミダスをホテルのロビーに置いてきてしまったのだ。そこで、取りに行くように指示した。すかさず内田が付き添って取りに帰ってくれた。座っていたところにあったので、事なきを得た。

 月曜日ということで、電車は非常に混んでいた。その混雑の中、ビックサイトまで移動する。

 ビックサイト。引率教師としては1年ぶりに戻ってきた。しかも、ファイナリストとして。感慨深いものがある。選手控え室に入る。立論の書き直しをする。解決性の部分を三つに分ける。津田が手書きで書き直すが、かなり時間がかかる。30分前にやっと書き上がる。

 修猷館のデメリットは、試合によって変わっているという話なので、その対策より、自分たちの議論を守ることを第一に戦略を立てる。昨日攻撃された一兆円の内訳を確認してカード化したり、解決性の部分を再確認していく。そうこうするうちに、創価や学芸大の面々が次々と励ましに来てくれる。
 学芸附属の志村君は、使えそうな資料も持ってきてくれた。そういえば、志村君が一人で女子聖まで練習試合をしに来てくれたこともあった。
 今回の肯定側立論の哲学は、学芸大が関東の決勝戦で提示した戦い方が大きな示唆を与えてくれていた。
 創価のみんなは、来るとなぜかカーペットに正座をして、かしこまって話をしていってくれた。特に野寺君の登場には、みんなが大喜びだった。

 いよいよ決勝戦。樋口たちと一緒に真ん前に陣取る。

 試合開始。津田はこの3日間で読み方が格段に成長した。ところが、あがっているのか、読みまちがえを何回かする。あとで聞いたら、ジャッジとアイコンタクトを取ろうとしたら、客席が暗くて審判が見えず、それで原稿に目を戻したときにどこを読んでいるかがわからなくなったのだという。

 相手の質疑はこちらのプランの4点目を集中して聞いてきた。津田は何を聞かれていたのかが、よくわかっていなかったようだ。深刻性の1兆円も予想通り聞かれてきた。1兆円の内訳に関してはカード化して資料を持っていたはずなのだが、質疑されたのが「1兆円というのは今までの積み重ねか」ということだったのだが、こういう聞かれ方をしたのが初めてだったので、うまく答えられない。時間切れで答えずに終わったが、渡辺は違うと首を振っていたので、この点はあとでフォローできるかなと思っていたのだが…。

 否定側立論。デメリット1は「地方間格差の増大」。95%しかフォローしないので、税収の少ない州が増税か、福祉の切り捨てかといった苦渋の選択を強いられるというもの。うちのプランに対応する形で作ってきてはいたが、「苦肉の策」という感じだった。95%しか補充しないので、毎年5%の不足が出て、20年経てば100%になってしまうというのだが、苦笑するしかなかった。こうした議論はもう練習試合の最初の頃にイヤというほど経験してきた。プランの2点目のところでこれは返すという対策はできていた。現状では、補助金に頼らざるを得ない状況なのだが、プランを実施すれば、売り上げに関する税金の半分は地元に落ちることになる。これは努力をすればするほど、州の財政が潤うことになる。しかも、公共事業だけしか選択肢がなかった場合に比べて、社会福祉に投資をした方が、雇用効果が大きいという資料もカード化して持っていた。これを使えば、現状の方が問題で、プランを行った方が公共事業頼りの現状より地方が活性化されるので格差は生まれない、という議論ができるはずだった。

 デメリット2は「企業の収益が下がる」といった話。州によって基準が変わると、スケールメリットが失われるという話だった。これなんか、簡単にターンしてメリットにすることができるはずだった。話として出てきたことを聞くと、厳しい基準を設置した州が出ると、違う製品を作らなくてはいけないということだから、逆に厳しい基準に適合できれば、それよりも基準の緩やかなところでは製品の競争性が高まるわけだから、企業にとってはいいことのはず。日本の車がそういった基準をパスして国際競争力を高めてきたことは周知の事実。

 否定側立論を聞いた段階では、かなり崩しやすい議論だなという感触を持った。

 ところが、質疑がどうも上滑りをしてしまう。時間切れでデメリット1だけしか聞けなかったこともあるが、相手の前提をうまく確認できていなかった。

 否定側第1反駁では、質疑の時の聞き方で予想したとおり、こちらの議論を誤解していた。1兆円が過去50年の蓄積の数値だという反駁をしてきた。1年に換算したらわずかだという反駁。でも、1兆円を50年でわっても、国家予算規模になっちゃうんだけどね。ただ、これからも同じように公共事業の無駄が増えていくとは証明していないという反論にはちゃんと答えないとな、と思っていた。

解決性に関しても予想通りの反駁が行われた。

 さて、いよいよ肯定側第1反駁。伊藤が準備してきたことをきちんと返してくれれば、かなりの確率で勝てる。ところが。びっくりしたなあ。あんなにあがってしまった伊藤は見たことがなかった。メリットの守りから入らずにデメリットの方からいったのもちょっと意外だった。しかもプランに戻らないし、福祉の雇用効果の資料も引用しない。ただ言っただけ。メリットに関しても、解決性に関する反論を3つ用意していたのに、1つ目の選挙で落とせばいい、という議論だけをぐるぐるくり返してしまった。1兆円のインパクトに対する返しだとか守るべき所に議論をしないまま時間が終わってしまった。

 否定側第2反駁はそんなに強くはなかったけど、こちらが積み残したところをまあなんとか引っぱっていた。そして最後。渡辺としては最後によく自分たちの議論に関してはまとめ直したと思う。ただ、相手の議論との比較を行わなかったし、相手の勘違いも指摘できなかった。

 それにしても相手の勘違いをただすことができなかったことは残念だったなあ。閉会の挨拶で、小林節氏が「ディベートなんて忘れてしまいなさい」といった逆説的な挨拶をされた。

 あの挨拶のもとになったのは、決勝の内容だったのかな、とちょっと心に澱のようなものが残っている。ほかの試合は見ていないので、なんとも言えないのだけれど…。

 肯定側が立証責任を十分果たせなかった。生徒があがったのはやむを得ないとして、ベストのコンディションに整えてあげられなかったことが唯一の心残り。

 でも、生徒たちは本当に良くやってくれた。

 春季大会5位、関東予選3位、全国大会準優勝。一歩一歩成長していく姿は、感動的だった。

 今年の女子聖学院は、決して強いチームではなかった。
 でも、自分たちが強くないことを自覚して、努力を続ける誠実さを持っていた。

 そして、それをサポートしてくれる保護者や、関東の仲間達がいた。
 みんな、お疲れ様。そしてありがとう。ビックサイトまで連れてきてもらって、顧問は幸せ者です。数々の戦略ミスを補ってもらい、役に立たない顧問で本当に申し訳なかったのに。ありがとう。

 そして、試合後、シルバーコレクターですと言った僕に、あるジャッジの方がこう言って下さった。
 「次決勝に来たときには、簡単に勝てますよ。」

 そう。今回の敗因をしっかり分析し、何ができて、何ができなかったのかをきちんと押さえていくこと。それが、次へとつながる。ビックサイトで試合をするという貴重な経験が、後輩達へと受け継がれていく。

 新生女子聖学院ディベートクラブの歩みは、ここから始まる。

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筑田 周一
s_chikuda@hotmail.com
最終更新日: 01.8.17